肺炎の診断・治療

肺炎とは、何らかの病原性微生物が肺に侵入したことで起きる急性の炎症です。
クリニックを訪れる多くの方の肺炎は「市中肺炎」に分類されます。年齢・基礎疾患の有無・咳の強さ・胸部所見の程度をもとに、細菌性の肺炎なのか、それ以外の肺炎(非定形肺炎)かを大きく推定・鑑別し、それぞれに見合った抗生物質を投与します。血液データや胸部レントゲン写真も病気の進展度の指標にします。痰の培養検査で原因菌が特定できた場合には、その菌に最も有効と考えられる抗生物質に変更することもあります。年齢や血圧、血液中の酸素分圧などを組み合わせてどれくらい重症であるかを判定し、外来で治療するか入院して治療するかを決定します。高齢者の肺炎では自覚症状や発熱などの所見に乏しいことがあり、呼吸や脈拍が早くなっていないか、脱水がないか、意識がしっかりしているかなどに注意をする必要があります。

どんな病気?

肺炎とは、何らかの病原性微生物が肺に侵入したことで起きる急性の炎症です。
肺炎は、大きく市中肺炎と院内肺炎とに分けられます。前者は医療施設に入院していない方が罹る肺炎で、後者は文字どおり、何らかの医療施設の中で生活している人に起きる肺炎をいいます。クリニックを訪れる患者さんがかる肺炎の大半は市中肺炎なので、ここでは市中肺炎について述べてみます。

どうして起きるの?

環境中に存在する病原微生物が吸入されて気管支や肺胞実質に到達して増殖することと、それに対して私たちの身体が免疫応答を働かせてこれを排除しようとして炎症を起こすことによって発症します。市中肺炎の原因となる病原菌では、肺炎球菌の頻度が最も高く、その他にインフルエンザ桿菌、黄色ブドウ球菌などの細菌も肺炎を引き起こします。

一方で、マイコプラズマ、クラミドフィラなどの、厳密には細菌に分類されない病原体により肺炎が起きることがあり、こうした場合の肺炎を「非定形肺炎」と呼んでいます。さらに、頻度は少ないながらもウイルスにより肺炎が起きることもあります。

これらの原因の中で、肺炎球菌、レジオネラ、ウイルスは、時に非常に重症の肺炎を引き起こすことが知られています。さらに最近では、HIV感染の初発症状としてニューモシスチス・イロベッチによる肺炎が起きることがあり、しばしば重症になります。

どうやってわかるの?

典型的には、発熱や咳、膿性の痰が出現し、レントゲン写真で肺に異常な影が出現した場合に肺炎を疑います。ただし、クラミドフィラ(クラミジア)による肺炎では、発熱や胸部の聴診所見に乏しく、咳だけが持続することもあります。

一方、レジオネラ肺炎などのように、腹痛や下痢、筋肉痛、倦怠感の後に高熱を伴って重症化する場合もあります。一般的に、非定形肺炎では、肺炎球菌などの細菌による「定型肺炎」に比べて、年齢が若い、基礎疾患が無いか軽い、痰が少ない、咳が強い、などの特徴を備えていることが多く、これらのことを参考にして両者を大まかに鑑別して治療内容を選択します。

一方で、高齢の方が肺炎を起こした場合、時に自覚症状や咳・発熱などの所見に乏しいことがあります。こうした場合には、呼吸や脈拍が早くなっていないか、食欲不振や脱水がないか、意識がしっかりしているかなどに注意をし、肺炎の存在をまず疑うことが大切です。

原因菌を決定するためには、喀痰をグラム染色したり、あるいは培養して、病原性のある細菌が検出された場合、臨床症状と照らし合わせて原因菌とします。

一方、口腔内には病原性の無い常在菌も住んでいるので、これらの菌が痰から検出されても、病的な意義はないと考えます。肺炎球菌やレジオネラは、肺から菌が血液の中に入って全身を巡ることが多いので、尿の中の抗原価を測定することが診断を確定するためにしばしば有用です。

どうすればいいの?

臨床的には、患者さんの背景や症状、重症度に応じて細菌性肺炎か非定形肺炎かを類推し、それぞれに適切な抗菌薬(抗生物質)を投与します。ただし、原因菌は必ずしも一種類と決まっているわけではありません。

例えば、非定形肺炎を起こすクラミドフィラは、細菌性肺炎との混合感染を高率で起こすことが知られています。ウイルスによる肺炎の場合には、原則として抗菌薬(抗生物質)は無効なので、対症療法が主体となります。

しかし、臨床的にはウイルス性肺炎とそれ以外の病原菌による肺炎を区別することはしばしば困難なので(CT撮影をすれば区別できることもあります)、症状があってレントゲンで影がある場合には、ウイルス以外の病原体による肺炎の可能性を念頭において抗菌薬を投与します。逆に、咳だけで膿性の痰がなく、レントゲンでも異常な影が見つからない場合、ウイルス性の気管支炎の可能性が高いので、これだけでは原則として抗生物質は投与しません。ただし、いわゆるハイリスクグループの患者さん(免疫抑制状態、著しい高齢、重症の肺の病気がすでにある人など)では、状況によってはウイルス感染に引き続いて二次性に細菌性肺炎を起こす可能性を疑い、抗生物質を投与することはあります。適応を見極めずに抗生物質を濫用するのがなぜ良くないかというと、そのことでその薬が効かない耐性菌を作りだす可能性が高まるからと考えられています。

治療を開始した場合、通常は数日から1週間後に診察し、身体所見と様々な検査所見を組み合わせて治療の効果を判定します。効果が不十分あるいは無効の時には、抗生剤を変更あるいは追加して治療を継続し、再度評価してゆきます。

肺炎の予防

高齢になるほど肺炎に罹りやすく、90歳以上の男性では死因の第一位を占めています。従って、肺炎に罹ることは加齢とともにある程度避けられないことと言えますが、一方で以下に述べるような注意を励行することで罹りにくくすることは可能です。

65歳以上の肺炎で最も頻度の高い病原菌は肺炎球菌です。肺炎球菌に対しては、ワクチンが開発されています。成人を対象に接種される肺炎球菌ワクチンは、23価ワクチン(ニューモバックス)と呼ばれるものです。1回接種すると、およそ5年間効果が持続します。肺炎球菌といっても実体は数十数種類の菌株があり、ニューモバックスは全ての菌株をカバーしているわけではないので、残念ながらこのワクチンを接種すれば絶対に肺炎球菌肺炎に罹らないというわけではありませんが、ある程度の予防効果は期待できます。現在では5年近くなったら再接種することも認められているので、65歳以上で何らかの基礎疾患のある人は積極的に接種を受けることが望まれます。

一方、ご自分の努力で出来るかぎり肺炎に罹らないように努力することも大切です。普段から規則正しい生活と適切な食生活、適度な運動を心掛けて、全身の血液の流れを良くしておくことが、免疫力を落とさず肺炎に罹りにくい身体を整える上でとても大切です(トータルライフケアの項を参照してください)。