気道過敏性
気道過敏性って何?
「気道過敏性」とは、気道や気管支が過敏で、様々な刺激に反応しやすい事を意味しており、喘息・咳喘息に最も特徴的、本質的な事象と考えられています。
狭義の気道過敏性とは、気管支収縮物資(アセチルコリン、メサコリン、ヒスタミンなど)に対する気管支の収縮し易さを示しています。臨床に使う検査に、気道過敏性試験という検査法があります。気管支を収縮させる物資を低い濃度から順次濃度を高めながら吸っていき、呼吸機能が一定以上低下した薬剤の濃度を過敏性の指標とします。気管支が過敏なほど、低い濃度で気管支が収縮します。この検査でわかるのは、気道を収縮させる気道平滑筋の過敏性です。しかし、実際の、あるいは広義の気道過敏性とは、単に平滑筋の収縮し易さを表すだけではなく、炎症に関与する様々なタンパク質によって引き起こされる、気道粘膜全体の傷害の起きやすさ、炎症反応の起きやすさ、増悪しやすさ、あるいは粘膜の修復され難さなど、即ち、「気道粘膜組織全体の過敏性・脆弱性」を総合的に意味する、より幅広い概念であると捉えることも出来ます。なお、気道の炎症のメカニズムについて、具体的な様子を知りたい方は、すこし複雑にはなりますが、宜しければ「アレルギーはどのようにして起き、進んでいくのか」に添付したPDF(気道炎症の免疫学的機序)を参考にしてください。
気道過敏性には、先天的な要因と後天的な要因とが関与していると考えられます。気道過敏性を規定する遺伝子は、狭義の平滑筋に対する過敏性ですらわかっていません。例えば、マウスやモルモットなどの動物を用いて、過敏性の高い個体どうし、あるいは低い個体どうしを交配させていき、遺伝的な特質を強めておいて、遺伝学的背景を探る試みは、院長が大学院生の頃から世界中で行われて来ましたが、いまだに明確な結論は出ていません。一方、後天的な気道過敏性とは、先にも述べたように、気道で炎症が起きた時に、それがすぐに治らずに進展増悪していく、「修復されにくさ、増悪しやすさ」を意味すると言えます。従って、後天的な気道過敏性においては、様々な遺伝子の活性化が複雑に影響を及ぼし合っていると考えられます。
現状では、私達に出来ることは、適切な治療によって気道の炎症を出来る限りコントロールして、炎症により惹起され亢進していく、後天的な気道過敏性を強めないようにすることです。
実際の臨床では、以下のような兆候、症状があり、特にしばしば繰り返される場合には、気道系で過敏性が亢進している事が強く示唆されます。
- ふとしたきっかけ(軽く咽せる、大笑い、部屋を移動する、など)で、咳が出たり痰がからみやすく、一旦出ると止まりにくい、あるいはしばらく切れない。
- 雨の日や気圧の低い日、寒暖差が強い、あるいは天候が崩れ出すと、急に喉に痰が絡みだす、息苦しく感じる、咳が出だす。
- 香水の刺激やタバコ、線香の煙で咽る、急に痰がからむ、咳が出る。
- 風邪をひいて咳が出だすと、しばらく治らない。
最近では、こうした軽い刺激で特に日中に咳が誘発されやすく、喉の違和感(イガイガ感)や、ふとしたことで咳が出そうな感じ(咳衝動)を伴い、基礎疾患に対する標準的な治療をしても治りにくい抵抗性の慢性の咳を、咳過敏(性)症候群(cough hypersensitivity syndrome: CHS)と総称して位置づけることが提唱されています。CHSの病態としては、気道を中心に分布する迷走神経の終末・末端の神経細胞膜にある様々な咳受容体の過敏性が亢進した結果、たとえ弱い刺激であっても過剰な神経刺激が、延髄にある咳中枢へ、一部は大脳皮質・大脳辺縁系にまで伝わり、高次レベルでの咳反射が誘発されると考えられています。これを「咳感受性の亢進」と呼んでいます。これも、気道の粘膜を構成する因子の一つである神経細胞の末端が過敏になっている状態です。
病態を生み出す主座がどこにあるかの違いはあるにせよ、気道平滑筋の関与する(狭義の)「気道過敏性」も、神経細胞の関与する「咳感受性」も、いずれも「気道粘膜全体の過敏性・脆弱性」の一表現型であると捉えることができると、個人的には考えています。患者さんに説明する時、私(院長)は「咳の出やすい患者さんは、気管支の粘膜が繊細で傷つきやすいのですよ。」と表現しています。