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喘息と水滞の体質

「水滞」って何?

喘息・咳喘息の患者さんでは、しばしば、気圧の低い日、つまり曇りや雨の日や台風が発生した時に、頭痛やめまいがする、身体がだるい、鼻水が出る、痰がからむ、といった症状を経験することがあります。ひどい場合には、喘息のコントロールが損なわれ、喘鳴や呼吸困難が生じることもあります。また、普段から身体がむくみやすい、お腹を触ると冷たい、胃の中に水が溜まりやすい、下痢しやすい、手足が冷たいなどの症状を感じている人もいます。

これらの症状・症候を起こしやすい体質を、東洋医学では「水滞(あるいは水毒)」の体質と呼んでいます。つまり、身体の中で水分が上手く循環しないために、本来留まるべきでない身体の部分に水分が停滞してしまい、水分過剰の状態になっている結果、天候の影響などによって、上に述べたような様々な症状が現れやすいと考えられています。

どうして起きるの?

東洋医学では、「水」「気」「血」を、身体を構成する三大要素と考えています。ここで言う「水」とは、血液以外の体液を総称して呼びます。西洋医学の知識に照らし合わせて見れば、両者は本質的には同一で連続しています。人間の身体の70%は水分から構成されています。「水滞」という概念でとらえる“水”とは、血管の外の組織や細胞の間(“サードスペース”と呼ばれます)を満たす体液と考えることが出来ます。「水滞」の体質の人は、このサードスペースに水分が溜まりやすい体質であると言えますが、どうしてそのようなことになるかについては、恐らく、遺伝子とその産物である様々な蛋白質の相互作用により規定されていると考えられますが、詳細は不明で、様々な要因が複雑に関与してそのような体質が出来上がっているとしか、現時点では言えません。一つの可能性として、アクアポリンと呼ばれる、細胞膜に局在し、細胞の内外での水分の出納に関係する一群のタンパク質が発見されており、ある種の病気ではその一部(例えばアクアポリン4)の機能に異常があることが判っています。

どうすればいいの?

普段の診療でもお話していることですが、喘息の患者さんでは、喉や気管支の粘膜を潤わせておくために、水分の摂取と環境の保湿が重要です。一方で、「水滞」の体質の人は、体内の水分を良く循環させ、水分過剰にならないようにすることも大切です。

そのための日常生活の要点を以下に述べます。

1.適度な水分摂取

「水滞」の体質の人は、1日に3,4リットルも飲むような過剰な水分摂取は避けるのが良いと考えられます。少量ずつ、こまめに摂るのが理想です。冷たい飲み物は、消化管を冷やすので、最小限にしましょう。

2.適度に運動をして血液を循環させる。

血液中の蛋白質が極端に少ないために水分が組織に漏れ出てしまう「低蛋白血症」などの病的な状態でなければ、一般論としては、適度な運動により血液の循環を良くすれば、連続したサードスペースの水分も循環して適切な量に保たれると考えられます。激しい運動でなくても、普段から身体を動かし、手足を刺激して、血液やリンパ液の流れを良くしておきましょう。しっかりと汗をかき、尿から排泄を促すことも大切です。

3.水分の排出を促し、身体を中から温める食べ物を意識して摂る。

以下に挙げるような食べ物は、ここに列挙したような、体内から余分な水分を排泄する作用がある成分を、それぞれ比較的多く含むとされています。普段の食生活で、これらの食べ物を少し意識して摂るようにすることも、試みる価値があると思われます。逆に、水滞の体質の方は、無意識のうちに、これらの食材のいくつかを良く摂っていることも、診察の場で良く経験されます。

  1. カリウム
    アボガド、バナナ、トマト、海藻
  2. クエン酸
    レモン、グレープフルーツ
  3. ビタミンE
    モロヘイヤ、アボガド、プルーン
  4. サポニン
    ゴボウ、小豆、ニンニク
  5. ポリフェノール
    赤ワイン、ブルーベリー、カカオ
  6. ビタミンB1
    豚肉、枝豆
  7. ビタミンB6
    マグロ、カツオ、レバー
  8. その他
    アサリ、トマト、パセリ、ナッツ類など。

4.薬物による治療

頭痛、冷えやむくみなどの症状が強い患者さんには、水分の排出を促す効果のある、五苓散(ごれいさん)という漢方薬を処方することがあります。生理の前に身体が浮腫んで喘息も悪化するような場合には、短期間、利尿薬を患者さんに服用して頂くこともあります。当クリニックでも、五苓散を服用して、むくみやめまいが軽くなることで体調が良くなり、頭痛の時に鎮痛薬を服用せずに済むようになった方もいます。これらの治療は、喘息そのものを治療するわけではありませんし、全ての方に有効であるわけでもありません。さらに、科学的な検証を経た上でその有効性が確認されているわけではないので、どの「喘息治療ガイドライン」にも、具体的な記載はありません。しかしながら、喘息の患者さんにしばしば見られる上記の随伴症状を軽減できることが、院長の臨床経験でも明らかにあり、概ね7~8割近くの患者さんでは、何らかの有効性が認められています。そこで、少なくとも水停の体質が明らかな患者さんには、費用が安いことや副作用が少ないことも考え併せて、患者さんと相談の上で、試みてみる価値があると考えています。効果の見られた患者さんの多くでは、通常は五苓散を減らして行き、必要な時だけに適宜服用することが可能になります。

何が大切なの?

最後に、喘息・咳喘息の管理・治療では、症状や重症度に応じて、適切な薬剤を・適切な量で・適切な期間使うことが基本ですが、それに加えて、患者さん自身の体質やコントロールを悪化させる要因(増悪因子)を認識して、こうした要因の影響をできる限り受けないように日常生活を過ごすことが、良好なコントロールを維持するためにとても重要です。例えば、気温が前の日と比べて3℃以上一気に下がると、喘息のコントロールが崩れやすいことは良く知られています。さらに、患者さんが自身の体質を認識し、普段からそれを整えることに少し注意を払い努力することで、必要最小限の薬で、日常生活にできるだけ支障を来さずに過ごして頂くことが、喘息の管理・治療の理想です。

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