咳の診断・治療

咳は、殆ど全ての呼吸器の病気で起きると言われるほど、呼吸器系の病気でよくみられる症状です。急性の咳の原因の多くはウイルスなどの感染症です。一方で、慢性の咳は、感染症やアレルギーなどの呼吸器の病気以外にも、消化器や心臓・血管の病気でも起きることがあります。原因により治療内容が異なるので、まず診断を正しくつけることが大切です。

どんな病気?

咳(咳嗽)は、殆ど全ての呼吸器の病気で生じうると言われるほど、呼吸器系の病気にとってよくみられる症状です。咳(正式には、咳嗽反射)は、本来は気道内に貯留した分泌物や吸い込まれた異物を体外に排出するための生体防御反応のひとつです。

どうして起きるの?

気道上皮細胞の間やその下には、咳受容体といわれる神経のセンサーが分布しています。ここに様々な刺激が加わると、迷走神経が興奮し、その信号が脳の一部である延髄咳中枢に伝達されて「咳反射」が起きる結果、胸郭の組織が急激に動いて咳となって表れます。こうして分泌物や異物を外に排出しようとするわけです。

咳にはどんな種類があるの?

咳は、持続期間の長さによって、急性(3週間以内)、遷延性(3週間から8週間)、慢性(8週間以上)に分けられます。あるいは痰の有無で、痰を伴わないかごく少量の粘液性の痰を伴う咳を乾性の咳、咳のたびに痰を伴うような咳を湿性の咳と分類することもあります。

急性の咳はどんな病気でおきるの?

急性の咳を引き起こす原因疾患の中で最も多いのは、ウイルスなどの病原体の感染による急性の上下気道炎です。頻度はずっと低いですが、外傷や肺梗塞など、急激に起きる障害や病気により咳を生じることもあります。持続時間が長い咳ほど、感染症以外の病気の可能性が高くなってきます。

長引く咳はどんな病気でおきるの?

遷延性・慢性の咳を起こす原因疾患は、国により異なっています。わが国では、喘息・咳喘息が約半数を占め、次いで、アトピー咳嗽と呼ばれるアレルギー性の咳の一種が2から3割近くをしめています。その次に多いのが副鼻腔気管支症候群(SBS)で1割弱、次いで感染の後に咳だけが残る感染後の遷延性咳嗽(PIPC)や逆流性食道炎(GERD)による咳が、それぞれ5%から1割弱を占めています。喘息や咳喘息の7,8割はアレルギーが発症に何らかの形で関与していると考えられているので、結局わが国では、長引く咳の6割以上にアレルギーが何らかの形で関与していると言う事が出来ます。

一方で、慢性の咳の原因として忘れてはならないのが感染症です。肺結核や非結核性抗酸菌症は、未だに年間一定の割合で新しく発症する患者さんが見つかっており、特に後者は近年増加傾向にあります。百日咳では、菌そのものは身体から排除された後でも、文字通り数カ月咳が残ることがよく見られます。習慣的にタバコを吸う人では、慢性に気道に炎症が生じている結果として咳が出ます。

タバコと関連して、高齢の方では肺がんやCOPDによる慢性の咳も見逃すことができません。年を取ったせいで年中風邪をひいていると思いこんでいたら、実は喘息やCOPDであったり、あるいは肺がんが見つかったという場合もあるのです。間質性肺炎と呼ばれるタイプの肺炎でも頑固な咳が出ることがあります。さらに、精神的なストレスが加わると咳となって現れることもあり、心因性咳嗽と呼ばれています。

どうやって診断するの?

このように、多くの病気が慢性の咳の原因となり、治療法も異なるので、まず診断をきちんとつけることが大切です。咳が出るからといって咳止めを飲んで無理やり抑えるだけでは、本当の治療にならないことが多いのです。

一般的には、咳が3週間以上続く場合には、胸部レントゲン撮影を受けることが勧められています。鑑別診断の参考になるのが先に述べた病気の頻度です。レントゲン検査以外に、血液検査や呼吸機能検査、喀痰の検査などを組み合わせて診断を進めてゆきます。典型的でない場合や通常の治療に反応しない場合には、例え頻度は低くても様々な病気の可能性を考え、CT撮影や場合によっては胃カメラなど加えて診断をします。

どうしても診断がつかず、かつ肺がんの可能性が否定できる場合には、最も疑わしい病気に対する治療を開始してその効果を見極めるという「治療的診断」がなされることもあります。

どうすればいいの?

咳を来す病気の治療は、当然ですがその原因疾患により異なります。アレルギーが関わっていると考えられる病気に対しては、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬、抗ヒスタミン薬などが投与されます。副鼻腔気管支症候群(SBS)の場合には、マクロライド系と呼ばれる抗生物質を、少量で長期間投与します。この場合のマクロライド薬は、菌を殺すための抗生物質としてではなく、免疫調節薬としての効果を期待して投与されます。逆流性食道炎による咳には、吸入ステロイドは無効で、胃酸を抑える薬を投与することで初めて軽快します。肺結核には複数の抗菌薬を組み合わせて合計半年以上投与するのが基本です。非結核性抗酸菌症(NTM)は、近年増加傾向にあり注意が喚起されています。結核菌と異なり、人から人へ感染することはありませんが、その反面、薬が効きにくいという問題があります。肺がんや間質性肺炎による咳は、前者では手術、化学療法や放射線治療、後者ではステロイド薬や免疫抑制薬など、その病気に対する標準的な治療をする必要があります。

このように、咳の治療は原因となる病気により大きく異なるので、まず原因となっている基礎疾患をしっかりと診断することが大変重要です。慢性の咳に悩む方は、ぜひ呼吸器専門医を受診されることをお勧めします。