花粉症と気管支喘息との関係
花粉症と気管支喘息の関係:”One airway, one disease”
最近では、気管支喘息と花粉症・アレルギー性鼻炎は、気道に起きるアレルギー性疾患という点から共通の病気と考えられています。2010年に我が国で行われた、約2万人を対象とした全国調査(SACRA研究)でも、喘息の患者さんの約3分の2に同時にアレルギー性鼻炎の症状があり、逆にアレルギー性鼻炎の患者さんの3分の1には喘息症状がありました。鼻腔(上気道)と気管支(下気道)とは解剖学的に連続しています。これまで、スギ花粉粒子はある程度大きいので、たとえ吸っても鼻の粘膜に留まり、気管支には届かないと考えられて来ました。しかし最近では、スギ花粉抗原の一部は直径が数ミリミクロンと極めて小さいことや、雨に打たれたり、アスファルトに積もって自動車に挽かれたりして細かくなることで、気管支まで吸いこまれて喘息症状を起こすことがわかりました。さらに、PM2.5や黄砂などの大気汚染物質は、気道のアレルギー症状を増強させることが知られています。
さらに、スギ花粉により鼻でアレルギー性の炎症が起きると、その場で様々な炎症性細胞が活性化されます。すると一部の細胞は血流に乗って気管支に到達し、そこで炎症をひき起こします。丁度、強い風に煽られて火の粉が飛び散り、離れたところで火事を起こすのに似ています。あるいは、細胞自身でなくても、炎症細胞の増加や活性化を引き起こす様々なたんぱく質が、血流に乗って気管支に到達して炎症を引き起こすことも考えられます。実際に患者さんでもこの可能性が確認されています。例えば、花粉症のあるボランティアの人の鼻の粘膜に花粉抗原を垂らし、その後数時間してから気管支鏡で気管支の中を調べてみると、好酸球という、アレルギーに関係した白血球が増えていることがわかりました。逆に、アレルギー性鼻炎の症状が全く無い、気管支喘息単独と考えられる患者さんの気管支に、気管支鏡で抗原を滴下してから数時間後に鼻の粘膜を調べると、同じように好酸球が増えていることもわかりました。すなわち、アレルギー性鼻炎でも気管支喘息でも、潜在的には鼻にも気管支にも炎症細胞の流入と活性化が同時に起きている可能性が示唆されました。このことを表すのが”one airway, one disease”という言葉であり、鼻と気管支が解剖学的に繋がっている以上、アレルギー性鼻炎と気管支喘息とは、共通した気道の病気であるということを意味しています。そこで最近では、「気管支喘息」という用語から「気管支」を外して「喘息」と呼ぶことも提唱されています。”one airway, one disease”の考え方によれば、鼻と気管支のアレルギーは同時に治療した方が治療効果が高いということになります。実際に、アレルギー性鼻炎を合併している気管支喘息の患者さんに鼻炎の治療を同時に行うと、鼻炎を同時に治療しなかった群に比べて、統計学的に明らかに喘息症状のコントロールが良くなり、発作を起こして薬を余分に使うことが少なくなり、救急外来の受診回数も減り、結果として治療費も少なくて済んだということが、多くの国から報告されています。さらに踏み込んだ言い方をすれば、喘息患者は潜在的に鼻炎を合併しており、鼻炎患者は潜在的に喘息の予備軍と考えることができます。特に、経口薬や点鼻薬を使ってもなかなか鼻が良くならない花粉症の方は、実は喘息が隠れていて、下気道の炎症が上気道(鼻や喉)に影響しているために薬が効きにくい可能性があります。実際に、
下気道の治療を同時にすることで、鼻の症状が軽くなったと言われる患者さんも少なからずおられます。一方、花粉症のシーズンが経過するとともに、鼻や眼の症状だけでなく、咳や気管支にも違和感を感じ始めた患者さんは、潜在的に起きていた気管支でのアレルギー性炎症が、ある閾値を超え喘息の初期症状として現れたと考えられます。
当クリニックでは、気管支症状の無い花粉症の患者さんにも呼吸機能検査を受けて頂き、早期の炎症が気管支にあるかどうかを調べることをおすすめしています。検査の結果、気管支に炎症が見つかり、ある程度の強さにすでに達していて、治療が必要と考えられる場合には、花粉症の治療に加えて気管支に対する吸入療法を同時に行うことで、鼻と気管支とを同時に効率よく治療することで、将来喘息が重症化するリスクを下げることが出来ます。(「なぜアレルギー・喘息の早期診断が重要なのか」もご参照ください。)