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なぜアレルギー・喘息の早期診断が重要なのか

アレルギー性疾患は、様々な体の部位の粘膜の脆弱性・過敏性が共通して根底にある病気です。そこで、一人の患者さんで、鼻や気管支、皮膚、消化管などの様々な臓器にアレルギーの症状が起きる可能性があります。

実際に、当クリニックの院長(土肥)は、開設以来11年、日々の診療経験を通じて、「気管支喘息だけではなく、花粉症、食物アレルギー、アナフィラキシーなどの様々なアレルギー性疾患の患者さんでも、現時点での呼吸器症状の有無にかかわらず、気道・気管支でもアレルギーによる炎症が、程度は様々だがすでに生じていることが多い」と認識するようになりました。

そこで、これらの患者さんでも、気管支喘息と同様に、早期の段階で気道の状態を評価して、隠れている病気を診断し、必要に応じて治療を早期に開始する(早期治療介入:early intervention)ことが、将来の難治化・重症化を防ぐ上で重要であると思うに至りました。以下、当クリニックでの実際の診療経験を根拠に、大学在籍時代の経験も紹介しながら説明します。

1.気管支喘息

これまでの経験で、呼吸器症状が軽く、これまで治療を受けずにいた患者さんで、当クリニックを初めて受診されて呼吸機能検査を受けて頂くと、すでにかなり低下していて、低肺機能の喘息と診断して治療せざるを得ない症例にしばしば遭遇してきました。こうした方では、すでに気管支で病気がある程度進行してしまっていて、積極的な治療をしても呼吸機能が改善しない事例も時にみられます。特に、高校生、大学生の方でこのような症例を時に経験して来ました。

一例をあげれば、アナフィラキシーで大学病院の小児科にずっと通院されていましたが、呼吸機能検査を受けたことがなく、呼吸器症状が強くなってから高校3年生になった時点で当クリニックを初診で来られた方がいました。

すでに肺機能がかなり低下してしまっており、労作時・運動時の呼吸困難も強く、好きなダンスの道に進むことが、残念ながらかなり難しい状況でした。こうした患者さんでは、ひとつの可能性としては、幼少期の呼吸器感染症などにより、もともとの肺の発達が悪い場合がありますが、一方で、小児期からあった喘息が見逃されてきて、呼吸機能が時間と共に低下して行った可能性があり、後者の場合、もう少し早い段階で検査を受けて診断し、然るべき治療を始めていれば、ここまで呼吸機能が悪くならず、人生の選択肢も広がっていたのではと思われます。

現行の学校健診や、小児の病気全般を広く診ておられる一般の小児科では、喘息の評価に用いるスパイロメトリー(呼吸機能検査、特に強制呼気時の1秒量)があまり実施できず、そのために、学童期、思春期に初期の喘息、あるいは進行中の喘息が見逃されていることがあります。

2.花粉症

花粉症と気管支喘息の関係」でも述べているように、我々の呼吸器は、鼻・副鼻腔・喉(上気道)から気管・気管支(下気道)、肺まで、ひとつにつながっています。従って、アレルギーにより生じる粘膜の炎症は、上気道から下気道まで、程度の差はあっても、潜在的にすでに同時に起きていると考えられます。アレルギー性鼻炎と気管支喘息との合併を調べた、日本の大規模な臨床研究(SACRA研究)でも、アレルギー性鼻炎の患者さんの約3分の1が気管支喘息を合併しており、逆に喘息患者さんの約3分の2がアレルギー性鼻炎を同時に合併していました。

当クリニックでの経験でも、年間を通して鼻炎症状があるわけではない、季節性の花粉症の患者さんでも、呼吸機能検査を実施させて頂くと、3割近くの患者さんで呼吸機能の低下がすでに認められ、中には明らかに喘息の領域にまで低下している方もいます。

この中で、風邪をひくと咳が長引く、季節の変わり目に咳が出るといった、症状から下気道の炎症が示唆される方や、たとえ明らかな症状を自覚していなくても、呼吸機能の低下がある程度以上進行している患者さんでは、咳喘息もしくは喘息の初期の段階と診断して下気道の治療を同時に行うと、多くの症例では、短期間で症状や呼吸機能の改善が見られます。ある程度の改善を確認して、下気道の治療は終了することが多いですが、その後、明らかな喘息に移行した患者さんは、少なくとも続けて拝見している限りでは、殆どおられません。

勿論、検査で軽い異常が出たからと言って、全ての患者さんを喘息と診断してむやみに治療をする訳ではなく、ダメージの程度が軽く、明らかな下気道症状が出ていない患者さんでは、経過を観察して行くことも多々あります。

3.食物アレルギー

当クリニックに食物アレルギーの相談に来られた患者さんに、呼吸機能検査を受けて頂くと、全く呼吸器の症状が出ていない食物アレルギーのみの患者さんでも、軽度から中等度の呼吸機能の低下が、およそ3割程度に認められます。気道・気管支の炎症を治療する薬剤を短期間併用することで、多くの方では、低下していた呼吸機能が数カ月程度で正常化し、気管支に対する薬剤を終了することができます。逆に言えば、こうした患者さんでは、水面下で潜在的に気管支に可逆性の炎症があったということになります。一方で、すでに喘息の領域にまで呼吸機能が低下してしまっていて、喘息として継続的な治療が必要な方もおられます。

以上、2)花粉症、3)食物アレルギーで紹介した、短期間治療をして改善がみられた患者さん達は、ごく早期の段階で積極的に検査・評価をすることで、気管・気管支での粘膜のダメージがまだ軽い段階でみつかり、短期間の治療により粘膜が修復されて、それ以上の進展が予防・回避されたと考えられます。いわば、別の項目で解説している「治療の窓」がまだ十分に開いていたので、治療効果が高かったと言えます。逆に、ある程度進行してから受診されて、呼吸機能低下が治療でも改善しにくい患者さんでは、残念ながら「治療の窓」が少し狭まってしまっているという事ができます。

4.運動誘発アナフィラキシー(EIAn)あるいは食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIAn)

EIAnやFDEIAnの患者さんでも、基本的には食物アレルギーと同様に、下気道の炎症が併存している方がいます。当クリニックに継続して通院中の患者さんの中で、およそ2割の方は、すでに喘息も合併していて、喘息の治療も同時に続けておられます。

5.アトピー性皮膚炎

当クリニックは内科系の診療機関であり、アトピー性皮膚炎の患者さんの診療は、診断と治療に高度の専門性を要するため、皮膚科の専門医にお任せしています。アトピー性皮膚炎については、現在様々な治療薬剤が上梓されており、従来と異なる高い治療効果が期待できます。様々な選択肢から、どの薬剤(経口薬、局所塗布薬、注射薬)を選び、組み合わせて最大の治療効果を発揮できるかが、皮膚科医の腕の見せ所となっています。この点は、関節リウマチの治療の現況と良く似ています。

実は、アトピー性皮膚炎の患者さんでも、下気道にアレルギー性の炎症が潜在性に起きている場合があります。院長が大学院生の時に、済生会中央病院皮膚科の鶴町和道先生、中山秀夫先生と共同で行った臨床研究をご紹介します。この研究の結果では、呼吸器症状がこれまで全く無かったアトピー性皮膚炎の患者さんでも、ダニの成分を吸い込むことで喘息様の症状と呼吸機能の低下が一過性に認められました。さらに、気道・気管支の過敏性を調べる検査を実施すると、純粋なアトピー性皮膚炎の患者さんの中にも、すでに気道が喘息の患者さんと同じ程度過敏になっている方がいました。従って、その時点での呼吸器症状のあるなしに拘わらず、アトピー性皮膚炎の患者さんの一部はすでに潜在性の喘息を合併していると考えられました。(参考文献:Dohi M, Okudaira H, Sugiyama H, Tsurumachi N, et al. Bronchial responsiveness to mite allergen in atopic dermatitis without asthma. Int Arch Allergy Appl Immunol 92:138, 1990.)

以上をまとめると、ある抗原(アレルゲン)に対して全身の感作が成立した人では、その病変の主部位が、気管支、鼻、皮膚のどこにあるかに拘わらず、気道・気管支系でもアレルギー性の炎症が、程度は様々であってもすでに起きていると考えられます。

そこで当クリニックでは、1)たとえ軽い呼吸器症状であっても、続いていたり、軽くなってもまた繰り返す方、2) 喘息以外のアレルギー疾患のある方、3) ご自分で何かのアレルギーがあるのではと疑っているが、これまで調べたことの無い方に、気道・気管支のアレルギー性炎症の状態の評価を受けてみることをお勧めしています。具体的な評価法としては、問診と身体診察を行った後に、3種類の呼吸機能検査(気道・気管支全体を評価するスパイロメトリー、特に末梢の細い気管支での空気の流れをみるモストグラフ、その時点での気道系全体のアレルギー性炎症の程度を評価する呼気NO検査)を適宜組み合わせ、併せて血液検査を実施することで、気道・気管支系ならびに身体全体のアレルギーの状態について、その時点での現況と将来の発症リスクを評価しています。

昔から、アレルギーは体質半分、環境半分と言われています。アレルギーの体質自体は、変わることはありません。高血圧や糖尿病などの他の慢性疾患と同様に、アレルギーが「治る」ということは、残念ながらありません。しかし一方で、「アレルギーは治らないがコントロールできる」と言われています。早期の段階で対応を学び実践することで、一生悪化させずに上手く付き合って行くことは十分に可能です。

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